【3429】 ○ ピーター・D・ピーダーセン 『しなやかで強い組織のつくりかた ―21世紀のマネジメント・イノベーション』 (2022/06 生産性出版) ★★★☆

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「3つのトレード・オン」「レジリエント・カンパニー」「トリプルA」を提唱。抽象レベル?

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しなやかで強い組織のつくりかた ―21世紀のマネジメント・イノベーション』['22年]

 長年にわたり日本企業を観察してきた著者は、日本の組織には、個人のパッションの炎を消してしまう「もったいない」力が働いているといいます。この状況を変えていかなければ「望ましい未来」は訪れないとし、目指すはしなやかで強い人間集団「レジリエント・カンパニー」であり、その実現のためには「マネジメント・イノベーション」が必要であるとしています。

 そして、「望ましい未来」を迎えるには、「3つのトレード・オン」の実現が求められ、 1つ目は、企業の発展と、健全な社会および自然環境の間のトレード・オン、2つ目は、組織の発展と働き手個人の充実感、やりがい、いきがいの間のトレード・オン、3つ目は、業績・ワークと家族と暮らしの幸福度の間のトレード・オンであるとしています。

 第1章では、これまでの人びとの働き方を振り返り、働き手の「暮らし」「幸福度」「人間性の解放」が軽視されてきたとしています。

 第2章では、日本的組織のこれまでの強みであったまじめさ、継続力、一体性は、20世紀には適していたが、こうした光(強み)に部分から生まれた、枠組みの重視と個の軽視、均質化、前例主義といった影(弱み)の部分もあるとしています、

 第3章では、これからの企業が「レジリエント・カンパニー」にならねならない理由を、人口統計学的な変化や、経済と成長市場のグローバルシフトなど、企業と組織を変えるメガトレンドとしての5つの「未来の種」を挙げて、それらの観点から解説しています。

 第4章では、日本企業はこれまでどうしてマネジメント・イノベーションを起こしにくかったのかを考察し、組織運営に必要な要素と、それらの21世紀に必要とされる実践スタイルを示しています。

 第5章では、「しなやかで強い組織体質」を実現する原理原則として、「トリプルA」、すなわちアンカリング(Anchoring)、自己変革力(Adaptiveness)、社会性(Alignment)の"3のA"と、それを強化する"9つの行動"を提唱し、その狙いを解説しています。

 第6章では、日本の上場企業に勤める社員2千人以上に対してトリプルA経営の観点から行った調査の結果から、日本企業におけるその現状と経営効果を、個別項目、性別、織級、業種別ごとに分析しています。

 第7章では、マネジメント・イノベータにとって必要な心構えとして、「主体性」「建設的思考」「行動重視」の3つが出発点となるとしています。

 第8章では、トリプルA(アンカリング、自己変革力、社会性)の原則、現場での行動、期待できる効果をより詳しく解説し、マネジメント・イノベーションの具体的なアクションを「カード」にして示しています。

 終章では、冒頭に述べた「3つのトレード・オン」を実現し、しなやかで強い組織「レジリエント・カンパニー」となることが最終ゴールであることを改めて説き、本書を締めくくっています。

 マネジメントのあり方や、組織運営そのものに革新を起こすことが日本企業にとっての最重要課題であるという趣旨であり、目指すは「しなやかで強い人間集団」=レジリエント・カンパニーであるという方向性もしっかりしているように思いました。マネジャーでなくともマネジメント・イノベータになり得るというのも啓発的でした。

 ただし、トリプルAとは何か、それを「現場での行動」にまで落とし込んだとしながらも、例えばそれが「強い信頼感の醸成」といった抽象レベルにとどまっており(もし自分で書いているとすればスゴイ日本語能力!)、全体としては"実践書"としてより、"啓発書"としてのの色合いが濃かったように思います。

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